高壁面せん断応力下における血管内皮細胞損傷の定量的評価

高壁面せん断応力下における血管内皮細胞損傷の定量的評価

Quantitative Evaluation of Endothelial Cell Damage Under High Wall Shear Stress

脳血管疾患は平成23年度の日本における日本人死亡数の第4位となっている(1).この脳血管疾患による死亡要因の10%であるくも膜下出血は動脈瘤の破裂が主要因である.動脈瘤や動脈硬化といった血管病変には,血流によって生じる壁面せん断応力(WSS)の血管内壁への作用が影響を与えることが指摘されている(2).そこで本研究では過去の研究(3)で開発された血管損傷評価システムを用い,血管組織に対してWSSを負荷し,血流による力学的作用が血管内皮細胞に及ぼす影響について定量的な評価を行う.

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Fig. 1 実験装置図

 実験システムおよび観察デバイスの概要を図1に示す.本システムは血管組織に制御された流れ場を負荷することが可能である.血管内壁観察用デバイス上に固定した血管組織に,ローラーポンプを用いて駆動した流れによるWSSを負荷する.ローラーポンプによる脈動除去のためパルスダンパを2つローラーポンプ下流に設置した.血管内壁の状態は,蛍光実体顕微鏡を用いて観察する.作動流体は1回の実験あたり2Lの哺乳類細胞培養用基本培地(D-MEM)にメチルセルロースを溶解させ,粘度約10cPとしたものを用いた.温度は37 ℃,圧力は100mmHgとした.血管試料には兎の胸部大動脈を用いた.またWSSの算出には文部科学省次世代IT基盤構築のための研究開発“革命的シミュレーションソフトウェアの研究開発”(4)で開発されたMC-BFlowを使用した.

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Fig. 2 実験手順

 実験方法は,血管組織上の血管内皮細胞を蛍光染色し,初期状態の観察を行う.観察後WSSの負荷を15分行う.負荷後もう一度血管内皮細胞を染色し,染色後,初期状態と同位置の観察を行う.この負荷,染色,観察を4回,計60分間のWSS負荷を行った.血管内皮細胞の損傷の評価は,初期状態の血管内皮細胞個数密度を100%とし,各観察ごとに個数密度を測定し評価を行った

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(a) Low WSS (300dyn/cm2)            (b) High WSS(950dyn/cm2)

Fig. 3 血管内皮細胞の個数密度

 図3に定常流負荷時の血管内皮細胞個数密度を示す.定常流低WSS負荷では血管内皮細胞の個数密度の現象はは見られなかった.一方,高WSS負荷では2サンプルで血管内皮細胞の剥離が観察され,大きく個数密度が減少した.大幅な個数密度の現象が見られた高WSSサンプル3では,図4に示す通り局所的な剥離が見られ,高WSSサンプル1では図5に示す通りほぼ全ての血管内皮細胞が剥離した.

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Fig. 4 血管内皮細胞の局所的剥離( High WSS steady flow sample3)

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            (a) 初期状態                      (b) 15分負荷後                      (c)60分負荷後

     Fig.5 血管内皮細胞の広範囲に渡る剥離(High WSS steady flow sample1)

 本研究では,血管損傷評価システムを用い,壁面せん断応力が血管内皮細胞におよぼす影響の定量的評価を行った.その結果,低WSS(300 dyn/cm2)の負荷では血管内皮細胞の個数密度の減少は生じないこと,高WSS(950 dyn/cm2)の負荷では血管内皮細胞の剥離が生じ,個数密度の減少が起きることを確認した.

参考文献

(1)   厚生労働省,人口動態統計 http://www.mhlw.go.jp/

(2)   林鉱三郎, バイオメカニクス, コロナ社, 2000.

(3)   飯田隆一,東京大学修士論文, 2007.

(4)   文部科学省次世代IT基盤構築のための研究開発“革命的シミュレーションソフトウェアの研究開発”

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