剛体壁の実血管形状動脈瘤モデル内流れのステレオPIV計測

剛体壁の実血管形状動脈瘤モデル内流れのステレオPIV計測

 

本研究では脳動脈瘤の好発部位の一つである中大脳動脈の実血管形状を再現した計測用モデル(図1)を作製し,定常流入条件下において形状が動脈瘤内の流動構造に与える影響について考察する.合わせて,動脈瘤の発生,成長,破裂に影響を与えているとされる血行力学的要素の一つである壁面せん断応力の分布についても調べる.具体的には,計測手法に計測平面内の速度三成分の分布を同時計測できるステレオPIV計測(図2)を用いることによって,実血管形状による動脈瘤内の三次元的な流動構造の可視化や壁面せん断応力の分布の算出を試みている.

  

図1 実血管形状in vitro モデル 図2 ステレオPIV

 

計測した中大脳動脈の形状では,脳動脈の分岐部に動脈瘤が発生しており(図3(a)),計測は動脈瘤のネック側からトップ側まで複数断面で行った(図3(b)).

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図3 (a)計測座標軸と流入流出方向 (b) 計測断面位置

 

このように動脈瘤内を詳細に計測しているため,得られた計測結果を統合するより,動脈瘤内の三次元的な速度分布のデータとなる.このことを利用すると,特定の断面内における速度分布の様子を異なる方向から見ることもでき(図4),動脈瘤内の速度分布について直感的な理解がしやすくなっている.

 

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図4 計測平面内の速度ベクトル図と面外速度成分の分布

 

また,動脈瘤内の流動構造を調べるため,流線の可視化も行っている(図5).この結果より,分岐部に流入してきた流れは,ほぼそのまま動脈瘤内に流れ込み,その後動脈瘤に沿った2つの渦構造をとることが分かった.

 

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図5 動脈瘤内の流れの様子

 

 

さらに,計測モデル作製に使用した形状データと計測データより,壁面せん断応力の算出も試みている(図6).各値はz=0mmにおける平均壁面せん断応力で無次元化した値である.この結果を見ると,動脈瘤内では1.0程度もしくは1.0以下の値となる部分が多く見受けられるが,特定の領域Aでは壁面せん断応力の値がz=0mmにおける平均値の4倍前後ととても高くなっている.

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図6 壁面せん断応力分布

 

参考文献
1. 明渡佳憲, 大島まり, 佐賀徹雄, 小林敏雄, ステレオPIVにおける非侵襲なカメラ校正手法の開発, 可視化情報Vol.23, Suppl. No.1,可視化情報シンポジウム(工学院大学 2003), pp.33-36
2. 明渡佳憲, 大島まり, 佐賀徹雄, 脳動脈血管モデル内のステレオPIV計測, 可視化情報Vol.24, Suppl. No.1,可視化情報シンポジウム(工学院大学 2004), pp.145-148
3. 明渡佳憲, 大島まり, 大石正道,佐賀徹雄, 脳動脈内流れの3次元構造の可視化解析, 流体工学部門講演会講演概要集No.04-25,(北九州市 2004), pp.278
4. Y. Akedo, M. Oshima, M. Oishi and T. Saga, Visualization of Flow Structure In Cerebral Aneurysm Model, The 8th Asian Symposium on Visualization, 2005, Thailand, pp. 177-179
5. 坂東佳憲, 大島まり, 大石正道, 佐賀徹雄, 小林敏雄, 実血管形状脳動脈瘤モデル内のステレオPIV計測, 日本機械学会論文集B編, 72巻, 722号, 2386-2393(2006)