1D-0D血行動態シミュレーションにおける不確かさ定量化のためのデータ駆動型代理モデルの構築

重症の頸動脈狭窄症は、虚血性脳卒中のリスクを減らすために外科的治療を行うことが推奨されています。しかし、手術によって狭窄部を一度に大きく拡張すると、血流が急激に増大して脳内出血を引き起こす「過剰灌流症候群(cerebral hyperperfusion syndrome:CHS)」と呼ばれる合併症が発生する可能性があります。CHSは発症率が低いにもかかわらず、適切に管理されないと重大な死亡率につながります。したがって、手術前にCHSの潜在的なリスクを持つ患者を特定することが重要です。

 

Fig. 1 頸動脈内膜剥離術を受けた患者で見られた血流量の変化 [3]

 

1次元-0次元血行動態シミュレーションは、合理的な計算コストで手術結果を予測する有望なツールです。特に,臨床データを取り入れたシミュレーションでは,患者に応じた予測が可能となります[1]。このアプローチでは、臨床データの不確かさが大きく結果を変動させるため、その影響を定量化することが信頼性の高い結果を得るために必要な作業です[2]。しかし、10^4~10^5回のシミュレーションによる不確かさの定量化(uncertainty quantification:UQ)は、高い計算コストがかかるため、時間や計算機資源が限られている医療機関では対応が難しい。

本研究では、計算量の多いシミュレーションに代わるデータ駆動型の代理モデルを構築し、デスクトップPCでもUQを高速に実行できるようにすることを目的としている。そのために、1次元-0次元シミュレーションから得られたデータセットを利用して、ニューラルネットワークの訓練をさせる。学習データセットは,生理学的に妥当な範囲の60の入力パラメータ(例:動脈の形状,末梢抵抗)をランダムにサンプリングし,対応する出力(例:流量,圧力)をシミュレーションから得ることで作成される.代理モデルの予測精度とトレーニングに必要なサンプル数を調査するとともに、実際の患者データを用いて実行することで,UQに代理モデルを使用することの妥当性を検証する.

 

Fig. 2 シミュレーションデータを用いた機械学習による代理モデルの構築

 

本研究で構築した代理モデルは,患者の医用計測データから得られた血管径,狭窄パラメータ,Willis 動脈輪の入口動脈と出口動脈での血流量が持つ不確かさを考慮し,手術後の血流増分∆𝑄̅ を確率分布として予測できるようにした.計測技術の限界により,脳循環の医用計測データには大きな不確かさが含まれるが、本研究で開発した手法は,そのような不確かさのもとでの予測結果の統計量を臨床へ迅速にフィードバックできるようにする。
3 例の実症例に手法を適用し,その有効性を確認した.その上,100,000 回の予測を伴う不確かさ解析をデスクトップ PC にて 1 分未満で実施できることが確認された.また,医師により過灌流のリスクがあると診断された症例において,本手法による予測結果も過灌流のリスクを示した(∆𝑄̅ が 100% を超える確率が3.8%). これらの結果より,予測に要する時間および予測結果の妥当性という両方の側面から,本手法が過灌流のリスク診断を支援するツールとして有効であることが示された.

 

参考文献

[1] H. Zhang, N. Fujiwara, M. Kobayashi, S. Yamada, F. Liang, S. Takagi, M. Oshima, Development of a numerical method for patient-specific cerebral circulation using 1D–0D simulation of the entire cardiovascular system with SPECT data. Ann. Biomed. Eng., Vol. 44, pp. 2351–2363, 2016.

[2] C. Yuhn, F. Liang, S. Takagi, M. Oshima, Impact of clinical data uncertainties on the patient-specific prediction of hemodynamics following carotid artery surgery. CMBE 2019 Proceedings, Vol. 2, pp. 497–500, 2019.

[3] Ogasawara K, Yukawa H, Kobayashi M, Mikami C, Konno H, Terasaki K, Inoue T, Ogawa A. Prediction and monitoring of cerebral hyperperfusion after carotid endarterectomy by using single-photon emission computerized tomography scanning. Journal of Neurosurgery, Vol. 99, pp. 504-510, 2003.