腹部大動脈瘤における薬剤内包ミセルの輸送解析

腹部大動脈瘤は破裂時の死亡率が90%以上と非常に危険な病気である。新たな治療法として、薬剤を内包したミセルを用いたドラッグデリバリーシステムが考えられている。静脈注射によって薬剤ミセルを体内に投与し、ミセルを腹部大動脈瘤に集積させることで、瘤の拡大を抑制する治療法である。現在ラットによる実験では、腹部大動脈瘤に薬剤ミセルが集積することが分かっており、その原因として瘤径の増加によって血管壁内の弾性組織が破壊され、ミセルが腹部大動脈瘤の血管壁内に拡散できることが考えられる。しかし、人の腹部大動脈瘤に対して効率的に集積するミセルの大きさ、集積するメカニズムは明らかになっていない。そこで本研究では、実際の病理画像から腹部大動脈瘤の血管壁構造をモデル化し、ミセルの挙動をシミュレーションすることで、血管壁内におけるミセルのトラップ位置、ミセルの粒径と集積性の関係を評価していく。

図2は腹部大動脈瘤血管壁の病理画像とその病理画像から抽出した血管壁モデルの画像である。

図2 左:腹部大動脈瘤血管壁の病理画像 右:病理画像から抽出した血管壁モデル

 

図3は血管壁モデル内における血流シミュレーションとミセルのトラップ位置の解析結果である。この結果から、ミセルが止まりやすい箇所は5.0μm~20μmの大きさの内部要素近傍であることが分かった。

 

図3 左:血管壁内における血流シミュレーション 右:ミセルのトラップ位置の解析

 

今後はミセルの粒径と集積性の変化についての評価を行っていく予定である。

 

参考文献

[1] 渕将徳, 腹部大動脈瘤における薬剤内包ミセルの血流―血管壁連成輸送解析, 2021年度修士論文