循環系血流解析における末梢血管網を考慮した流出境界条件のモデリング

循環系を対象とした血流数値解析を行う際の重要な課題として,境界条件の取り扱いが挙げられる.一般的に,各症例に対応した解析を行う際,その解析領域は解析対象とする部位の近傍に限られる.しかし,その限られた領域における解析を行う際には,本来閉じた系である循環系全体の影響,すなわち心臓による拍動および血管が分岐していくことによる抵抗を考慮する必要がある.ここでは,医用画像から実際の血管形状を再構築し数値解析を行うImage-Based Modeling and Simulationにおいて医用画像から抽出が困難である末梢血管網(小動脈,細動脈,毛細血管)の影響を考慮したマルチスケールな流出境界条件を,脳内の主要な血管網であるWillis動脈輪(図1)内の血流数値解析に適用した事例を紹介する.

図1 Willis動脈輪モデル(左:狭窄なし,右:狭窄あり)

図2 狭窄のないモデルにおける拍動ピーク時の流量分布(左:自由流出境界条件,右:マルチスケール流出境界条件)

図2,3に血管に狭窄のないWillis動脈輪および狭窄のあるWillis動脈輪に,自由流出境界条件とマルチスケールな流出境界条件を適用して解析した際の拍動ピーク時における流量分布をそれぞれ示す.

狭窄のないケースでは,自由流出境界条件を適用した場合(図2左)に後交通動脈(PCoA)を通して血流量の多い脳前方(Anterior)から後方(Posterior)に血液が流れるが,一方でマルチスケール流出境界条件を適用した場合(図2右)は後方から前方に血液が流れることが見て取れる.

狭窄のあるケースでは,後方からの血流が全て脳の左側に流れ込む.そのため,自由流出境界条件を適用した場合(図3左)では左右の後大脳動脈(PCA)の流量差が大きくなっているが,マルチスケール流出境界条件を適用した場合(図3右)では左後交通動脈(Lt.PCoA)と前交通動脈(ACoA)の血流量が増加し,その差が小さくなり,「Collateral Flow」と呼ばれる流れが生じている.

これらの結果から,マルチスケール境界条件の適用により,Willis動脈輪における血流量およびその方向に改善がみられることが確認された

 

図3 狭窄のあるモデルにおける拍動ピーク時の流量分布(左:自由流出境界条件,右:マルチスケール流出境界条件)

参考文献

  • Oshima, M., Tokuda, S., Unemura, T., Sugiyama, S.: “Numerical simulation of blood flow in the circle of Willis with outflow boundary conditions using a one-dimensional model”, Proceedings of 5th World Congress of Biomechanics (CD-ROM), 2006.
  • 徳田茂史, 杉山聡, 畝村毅, 大島まり: “血流シミュレーションにおける末梢血管網を考慮した流出境界条件のモデリング”, 日本機械学会2006年度年次大会講演論文集, Vol.6,pp.53-54, 2006.